<坂本龍馬は名交渉役!?>
歴史上の人物を見ると、幕末期に薩長同盟の締結などに奔走した坂本龍馬は、名交渉役と言えるだろう。
田村教授の言う近江商人の三方よしに当てはめるなら、「薩摩よし」「長州よし」「亀山社中よし」「土佐よし」「世間よし」...と、あらゆる方向に気を配っていた。
複雑に絡み合う社会の状況を、「共通利益」を作ることで、WIN-WINの関係を構築した。日本が危機的状況にあった幕末期で言うと、江戸城無血開城を行なった西郷隆盛、勝海舟、山岡鉄舟らも、よき交渉人だったと言えるだろう。彼らは、自分だけの利益を考えたのではない。
<交渉力とは危機突破能力>
よき交渉者は、危機を突破できる力を持っている人でもある。組織が危機に直面しているのであれば、その危機を、クリエイティブな選択肢、解決案や、それまでには誰にも考えられなかった斬新なアイディア、思考法でもって、切り抜けることのできる人物が、優れた交渉者であり、時代を切り開くリーダーでもある。
坂本龍馬は、若くして暗殺されたことを思うと、最後には「自分よし」とはならなかった。
世のなかには、明確な正解というものはない。政策やビジネス戦略においても、100%の正解というものは存在しない。正解のないなか、組織、国家、国際社会にとって、建設的な議論をし、創造的な選択肢を模索し、意思決定、決断し、実践していく。
現在の日本には、「自分よし」を捨ててでも、「相手よし」「世間よし」を作っていける政治的リーダー、ビジネス界のリーダーが必要だろう。
明治維新を成し遂げたリーダーたちは、自分の属した「藩」「幕府」という枠のなかだけの利益にこだわらず、自己の利益を追いすぎなかったからこそ、改革を成功に導くことができたのではないか。
「企業」「省」「党」など枠のなかだけの利益にこだわらず、日本全体をよりよい方向に導けるよき交渉者、リーダーが出現するかどうか。
国民は、そういう"交渉力"のあるリーダーを選びたい。
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<プロフィール>
田村 次朗(たむら じろう)
慶応義塾大学法学部教授。専攻は、経済法、国際経済法と交渉学。ハーバード・ロー・スクール修士課程在籍時に、交渉学を学ぶ。ジョージタウン大学客員教授などを経て、97年より、現職。ハーバード大学交渉学研究所では、インターナショナル・アカデミック・アドバイザー、ダボス会議(世界経済フォーラム)では「交渉と紛争解決」委員会の委員を務める。交渉学に関する著書に「交渉の戦略」(04年、ダイヤモンド社)など。
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